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この夕ゆふへ、柘つみのさ枝の、流れ来こば
 梁
やなは打たずて、取らずか、
万葉集  作者 不明 


いにしへに、梁やな打つ人の、なかりせば、
  ここにもあらまし、柘
つみの枝はも
万葉集  若宮年魚麻呂 わかみやのあゆまろ

 この夕/ いにしへに
 この二首の歌を詠む元になったお話があります。「吉野の味稲(うましね)という人が吉野川で梁(やな 魚を捕る仕掛け)にかかった柘(つみ)の枝を家に持って帰ったところ、それが美女に変身したので、妻にしましたが、その後、天に昇っていった。」というものです。


大夫ますらをの 出で立ち向ふ 故郷の 神なび山に 明けくれば 柘つみのさ枝に 夕されば 小松が末うれに 里人の 聞き恋るまで 山彦やまびこの 相あひとよむまで 霍公鳥ほととぎす 妻恋つまごひすらし さ夜中よなかに鳴く
長歌 古歌集より

「故郷(ふるさと)の神奈備山(かんなびやま)」がどこなのかはっきりしていませんが、飛鳥(あすか)の雷丘(いかづちのおか)、甘樫丘(あまかしのおか)、もしくはほかの山と考えられています。



 



 柘(つみ)は、野桑(のぐわ)/山桑(やまぐわ)のこととされています。野生の桑で、クワ科クワ属の落葉高木です。桑は4月頃から花をつけ、6月頃から赤い実をつけます。実は、夏になると黒く熟して食べられるようになります。
 なお、柘(つみ)はヤマボウシのことという説もあります。
 柘(つみ)は日本原産の野生の桑ですね。蚕に使うのは中国から輸入した桑です。







の ぐ わ   (けぐわ)   Morus tiliaefolia Makino  〔くわ科]
  本州西部,四国、九州、朝鮮南部の山地に自生する落葉性高木で、枝はやや太く、粗毛があり、葉が互生する。葉は広卵形で、先端は急に鋭尖し、時には短い尾状となり、 基部は深い心臓形、ふちにやや鈍頭のきょ歯があり、稀に3裂又は一方にのみ浅い裂片があって, 左右が多少不同, 上面には粗毛がありさらつき、下面は毛が多く、特に脈上には開出する短毛が密生し、やや長い葉柄には密に短毛がある。雌雄異株。春, 葉とともに葉腋から柄に毛のある花序を垂れ下げる。花序は円柱穂状で、雌花穂は短く、がく片は4個、おばなにはおしべ4個、めばなにはめしべ1個、花柱は基部まで2裂し、柱頭は開出して反りかえる。
-牧野植物図鑑-






 桑は以前取り上げました。それは中国の桑、今回は古代の呼び名は柘(つみ)、野桑(のぐわ)/山桑(やまぐわ)と呼ばれた、日本の野生の桑です。今、普通畑や人の住む近くで見かけるのは、お蚕様飼育のため中国から輸入された種類です。四川では神木されていました。その影響は天女が化身する特別視されていたのです。絹を生む高貴な木として和歌にも詠まれたのです。     (ま)

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