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12月の庭劇場

『 ゆっくりひざまづく 』
12月24日(木)~28日(月)

( 三 日 公 演 )

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 わたしはスティーブマックィーンが主演した実録もの映画『パピオン』のあるワンシーンに胸が衝かれている。随分前に観たのですがいまだに衝かれたままなのです。
 パピオンとは胸に蝶の刺青をした男の愛称です。チンケな違法行為で長期間の服役の判決を受け、脱獄を繰り返し、その度捕まり過酷な懲役を課せられている。

 その何回目かの脱獄時、捕獲の手勢からのがれ濁流に飛び込む。つぎの場面は穏やかな波打ち際で気を喪い横たわっているパピオン。パピオンはその汀で先住民の美しいインデアン娘に助けられるのです。椰子の木がゆるやかに揺れ、掘っ建て小屋のような家屋の中で夢のような生活を過ごすのです。
 ある夜、酋長の胸に蝶の刺青を彫ることを命じられる。次の朝パピオンが目を覚ますと、掘っ建て小屋に風が荒々しく吹き込んでいた。海は荒れ、波を激しく海岸に打ちつけている。インデアン達は一夜のうちに住居を棄て、海岸から移動していていた。パピオンはひとり取り残さた。夢のような生活の地であった海岸は、いまは荒れ狂う地に変貌した。

 わたしが胸を衝かれつづけているのはその場面です。天国と位置は変わらないのに、天国はもはやどこにもなかった。天国が併せ持つであろう地獄もない。荒れ狂う風景はパピオンに無関心で吹き荒れている。

          首くくり栲象

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