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3月の庭劇場

「 に 」 の 力

3月25日(水)~26日(木)


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 空をみるには仰げばよい。手をかざせば、山はほどよい具合で望められる。私は海を車窓で眺めるのが好きだ。しかし触れるとなるとどうだろう、山は山肌までゆかねばならない、空は雲の所在まで訪ねねばならないだろう。どんよりと曇ったいちじつ、電車の小旅行を思い立った。私か住む南武線の谷保駅から立川へ、中央線で八王子に。そこで横浜線に乗り換えて橋本へ、相模線で茅ヶ崎駅。茅ヶ崎で踵を返し、東海道線で東京駅へ、中央線に乗り換え谷保駅の真向かいに位置する国立駅まで、三時間ほどの行程ぐるりと巡る計画でした。

 谷保駅から二時間ほどで茅ヶ崎駅に到着した。改札口の人波を眺めているうちに猛烈に海と出くわしたくなった。見るだけなら熱海行の車窓で充分だ。触れたいのだ。駅前地図で海を確認し、一直線に延びる眼前の路を足早に二キロか三キロ歩いた。海岸道路を横切り、ネットを被せた防風林をぬけると、そこに海は居た。右手に日没、左手に江ノ島らしき島がどんよりとして居座っている。わたしは吸い込まれたように波に近づき、人間を忘れたかのように、海に人差し指を浸けた。

          首くくり栲象

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