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8月の庭劇場

「 蝉 と か しわ の 木 」

8月22日(土)~24日(月)


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 庭の空気が白く見えるほど雨が降っています。屋根を打つ音、地面をたたく音、草や木や石や垣根や、雨同士も擦れるのか、屋根から樋につたわり、霧よけからボタボタ落ちる太い雨粒、豪雨という語彙に単調ならざるさまざまな音が、絨毯の糸のように織り成し響きあっている。

 ときに雨の勢いが弱まると、それぞれの音の強弱がよりはっきりと聞こえる。雨とは異なった旋律にも気づく。蝉の声か。そういえば豪雨のさなか、それとおぼしき響きも入っていたのです。

 この庭劇場はシ―トで囲んでいます。シ―トの中に樹齢百年は越えているであろう椿と、さいきん実をつけた琵琶の木、屋根より高く成長した合歓木などが顕著ですが、それよりはるかに高い柏の木が、シ―トの外に居ます。わたしがこの庭つきの借家に入居したとき、椿と柏は地面の先住者です。

 雨はまた激しく降ってきた。柏の木は目算で10メートル以下ではない。二坪ほどの庭は、わたしの日々の徘徊で地面はすり鉢状に固められ、豪雨が30分も続けば小魚が游げるほどの池となる。

 夏の雨は消息が激しい。突然に止んだ。ジリジリと搾るような響きが聴こえてくる、蝉は、豪雨のさなか柏の樹皮の深い裂け目裂か、鋸のような波状の葉陰に身を潜め、腹面の発音器を震わせていたのでしょう。

 広辞苑の「蝉」の項目では、成虫は樹皮に産卵。孵化した幼虫は、地中に入って植物の根から養分を吸収し、数年かかって成虫になる。と記されてある。

          首くくり栲象

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