─ 2011年 ─

prev next


八月の 庭劇場



「 朝 顔 が イ ッ パ イ だ 」

8月16日(火曜)~19日(金曜)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 さきほと、庭の椿に、蝉が飛来し、とまった。啼かないところをみると、雌の蝉かも知れない。庭に、蝉の這い出た穴がひとつある。まさかその蝉ではないにしても、地上での生命が、あとひと月あまり、這い出るまで、庭の土中に六、七年、生息していた訳で、わたしの生活に関与しないと謂えども、ともに、いちにちの観が沸き起こってくる。

 かって、ノルマンディで、ひと夏滞在していたとき、右目の彼方に見える雲が、形を変えながらゆっくり眼前を通過し、左目の方角に流れてゆく様を、一日かけては眺めていた。きょうという一日の時と空は、人間の長い年月の、栄枯盛衰をも瞬きにしてしまう、寿命の長さを感じる。
 この一日の寿命は、蝉だけではなく、ほかの生物の生命と、実に、ダイレクトに繋がっているのではなかろうか。なぜなら、一日の行方は、また蝉の行方であり、人間の行方でもあるからです。われわれのいかなる実態も、この行方の範疇に入る。問題は依然として解決されていなくても、びくともしない一日の寿命のただ中に、いずれは、はらわなくてはならない負債を抱えて、われわれの栄枯盛衰は、いる。

                       首くくり栲象


prev next