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庭劇場「能書き集」
2009年



『 記 憶 力 』
6月21日~30日


 やはり人間は好きなことをやらなくてはならないのです。それ一本で精神的にも食うや食わずの恩恵に浴して!

 しかし嫌な仕事も、忍耐力しだいで次第にイヤイヤがイヤに薄まり、その内なんだか、いやでもなくなったのかな? あれほど待ち焦がれていた食事の休憩時間が、あっというまにやってくると一切の努力が実を結ぶ事実もある。

 しかし、わたしは外国にいけば、そこいら中に外国語が転がっていて、わけもなく掴むことができると思っる奴なのです。(事実、転がってはいたかもしれないが、掴む努力をしなければ言葉は礫より痛かった。)
 そんなわたしですから、当然、何年かかっても一向にすきな仕事をみつけられず、さりとて諦めきれず齒六十を過ぎ、時間を滅ぼす舟にのっている。

 そこで、おもいにおもい努力と忍耐を怠ったのは、わたしに備わっいた記憶力にこそ、問わなければならないのではないか、と考えました。

 わたしの記憶力は、この地上の重力の厚い岩盤の下敷きになって、身動きできない性格なのだと思い付く。
 月面なれば半分以下の重力だ。自ずと岩盤も軽減されるだろうと、科学書で調べるつもりはないが、知って納得して信じて敢行するのが、記憶力の旗印の様相のひとつなら、 なんだか、この庭劇場の重力下、無知で無防備だが記憶力に似た旗印が翻っている既視感が湧く。

 記憶力は相変わらず岩盤の下敷きなのだから、これは幻想の旗です。

 目をつむれば千切れた一センチ四方くらいの白い旗だが、目を開けばドクダミの白い花を見ている。


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