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5月の庭劇場
『 Free Document』
25日(木)~ 31日(水)
26、29、30日(休演)
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さくねん、蝉の声を耳にしたのは7月にはいる前だったと印象している。真昼に図書館への道すがら、わりと広々した十字路を曲がりかけたとき、頭上のこんもり繁った木々の茂みで蝉の声を聞いた。
白眉はその夏の八月半ば。富士の裾野の森のなか、溶岩の岩場に腰かけ朝から夕暮れにいたる終日、晴天の空に沸き上がる雲の姿を眺めながらの蝉の合唱でした。その合唱は周期的で幾つかの森で競いあって聞こえ、青い空に浮かぶ雲の大群に届いている様に思えた。
ふと、座っている溶岩の足下で、小さな紅い可憐な花弁が目に入った。五センチほどの茎に小枝を螺状に伸ばし、先端に紅い小花を多数つけていた。
しばし目にしなかったねじばなのようだった。この広い富士の裾野の中でたった一輪、咲いていたところにわたしは座った。それは偶然であろうが、それはなにかきっと意味のある偶然なのだと秘かに認識していた。
首くくり栲象
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